大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和62年(ラ)589号 決定

主文

1  原決定を取り消す。

2  相手方の本件債権差押え及び転付命令の申立を却下する。

3  手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状、上申書記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

(一)  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  抗告人破産者日本化学技術株式会社(以下、「日本化学技術」という。)は、①化学機械、装置並びに設備に関するコンサルタント業務、②化学機械、装置及び設備の設計、製作並びに販売、③化学機械、装置並びに設備の製作監理、建設監理、④前各号に附帯する事業を目的とする法人である。同社はプラント・メーカーであるとともに加熱炉メーカーでもあるところに特色をもつ。

(2)  相手方ボルカノ株式会社(以下、「相手方」という。)は、①各種工業用窯炉並燃焼装置、金物陸舶用汽罐燃装置、タンク類等設計製作築造並販売、②前項に附帯する一切の事業を目的とする法人である。

(3)  日本化学技術は、第三債務者三菱重工業株式会社(以下、「三菱重工業」という。)がチリにプラント輸出するCCSプロジェクトのうちの一部システム設備に関する商談につき、昭和六一年七月五日、プレヒーター・ヒート・エクスチェンジャーに関する見積仕様書(疎乙第八号証)を提出した。これによれば、日本化学技術は前示システム設備にかかる後記機器リスト記載の機器の設計、製作、調達、梱包及びF・O・Bまでの一切を行うものであつて、具体的には、三菱重工業の仕様書、基準書その他に示された加熱処理される流体の量、加熱温度及び使用流体の種類その他の条件に従い、システムを構成する機器の基本設計、構造詳細設計、強度計算を行い、その機器を製作し、検査、防錆塗装、梱包、輸送、予備品を納入することを仕事の範囲としている。

(機器リスト)

① E二〇七 プレヒーター・ヒート・エクスチェンジャー 一

② F二〇一 プレヒーティング・ファーネス アンド ダクト 一

③ P―二〇八A/S プレヒーター・F・O・ポンプ 二

④ その他のアクセサリー 一組

(4)  三菱重工業(化学プラント事業本部調達部)は、昭和六一年九月一一日、日本化学技術に対して後記製作物を合計三九〇〇万円で納期昭和六二年八月一〇日その他の約定のもとに発注した(疎乙第一号証)。

① E二〇七 プレヒーター(加熱器)一組単価二三〇〇万円

② F二〇一&P―二〇八A/Sプレヒーティング・ファーネス(熱風発生炉)一組単価一六〇〇万円

その後、三菱重工業は、昭和六二年五月二一日、日本化学技術に対してF二〇一プレヒーター・ファーネス用補充予備部品(電気品)一組を一三万八〇〇〇円、納期昭和六二年七月一五日その他の約定のもとに発注した(疎乙第二号証)。

(5)  昭和六一年九月一九日、相手方は日本化学技術からの引合に応じてプレヒーティング・ファーネスに関する見積書を同社に提出した。日本化学技術はこれを検討したうえで同年一〇月一一日相手方に対してプレヒーティング・ファーネス・ユニット(熱風発生炉及びプレヒーター・ポンプ一式を含む。)を注文金額五五〇万円、納期昭和六二年七月一五日その他の約定のもとに発注し、相手方はその詳細設計、製作、梱包、運搬等の注文を請けた。

その後、相手方は日本化学技術の求めに応じて昭和六二年六月一〇日ファーネス予備品の見積書を提出し、同月二二日同社からF二〇一ファーネス予備品、輸出梱包済、1を注文金額八万円、納期昭和六二年七月末日(ただし、その後、納期は本体を含め昭和六二年八月一〇日に修正された。)の約定のもとに受注した。

なお、日本化学技術が三菱重工業から受注したE二〇七プレヒーター・ヒート・エクスチェンジャー一組は三浦工業に発注した。

(6)  相手方は、受注した前示機器を完成し、三菱重工業、日本化学技術の承認を得たのち、予備部品とともにメーカー日本化学技術とする輸出用梱包をすませたうえ、昭和六二年八月一〇日神戸港にある納入場所に納品した。

(7)  日本化学技術は、昭和六二年九月七日三菱重工業に対して前示契約金三九一三万八〇〇〇円のうち一九五〇万円の支払いを請求し、その頃その支払いを受けたので残一九六三万八〇〇〇円の請求債権を有する。

(8)  日本化学技術は昭和六二年九月二二日午前一〇時大阪地方裁判所から破産宣告を受けた(同裁判所昭和六二年(フ)第八二二号破産事件)。

(二) 以上の認定事実によれば、昭和六一年九月に締結された日本化学技術と三菱重工業との間のプレヒーター・ヒート・エクスチェンジャー及びプレヒーティング・ファーネスの設計、製作、梱包、運搬及びF・O・Bまでを内容とする有償双務契約はいわゆる製作物供給契約の一種類と見るべきものであり、日本化学技術が相手方との間で、同年一〇月に締結した受注工事の一部分に当たるプレヒーティング・ファーネス・ユニットに関する設計、製作、梱包、運搬を内容とする有償双務契約(製品外注の一形態)もまた同様の契約であると認められること、また、昭和六二年五月に締結された日本化学技術と三菱重工業との間の予備部品供給契約(追加契約)、同年六月に締結された日本化学技術と相手方との間の同予備部品供給契約(追加契約)も同様であると認めることができる。

そうすると、相手方が日本化学技術に対して有する合計五五八万円の金銭債権は動産売買契約の代金債権ではなく、製作物供給契約、すなわち請負と売買の双面をもつ混合契約に基づく代金債権である。本件のような契約形態の製作物供給契約には民法五五九条により売買契約の規定が準用されることはありうるとしても、その製作販売代金債権を担保するために民法三二二条を準用することは同条の立法趣旨と沿革並びに文言上許されないと解すべきである。

また、日本化学技術の三菱重工業に対して有する残一九六三万八〇〇〇円の金銭債権も、相手方が製作供給したプレヒーティング・ファーネス・ユニットの代替物(民法三〇四条一項)ではなく、前示製作物供給契約に基づく製作販売等代金債権である。

したがつて、相手方の本件債権差押え及び転付命令の申立は、抗告人のその余の抗告理由に触れるまでもなく、全部失当である。

3  よつて、右と結論を異にする原決定(本件債権差押え及び転付命令)は相当でなく、抗告人の本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して相手方の各申立を却下し、手続費用は第一、二審とも相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官大和勇美 裁判官久末洋三 裁判官稲田龍樹)

別紙抗告状〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例